今年もアメリカンクラフトビア・エクスペリエンスが、東京都港区のウォーターズ竹芝の芝生広場で開催されました。これまでより少し早めの日程で、11月1日(金)〜3日(日)の3日間。前年から進化した点がいくつかありました。ひとつは雨対策のテント設置。そして、会場での決済はキャッシュレス決済のみに。現金の場合は、インフォメーションカウンターでトークン(金券)を購入。ブースでの小さな手間が省けるだけで、行列が緩和され、会話もビールにフォーカスしたものになっていたように見えました。物販テントでは、ACBEのLINE友だち画面の提示でコースターがプレゼントされる新たなお楽しみも。その場で使えるグッズが貰えるのは嬉しいことです。2日目は天候悪化の予報が出たため、16時終了となるアクシデントが。でも、翌日は開始時間前から来場者があり、売り切れるアイテムも出る盛況ぶりでした。
米国の小規模・独立系クラフトビールメーカーの業界団体、アメリカンクラフトビール協会(Brewers Association)が主催するこのイベントは、今回で8回目。「アメリカのビールの販売量の24%がクラフトです。国内に9,500以上の独立系ブルワリーがあり、それぞれがユニークで沼にハマると深い。100種類以上あるビアスタイルの中でも最も人気なのがアメリカンIPAで、クラフトビール全体の1/3を占めます。」と語るのは、協会ディレクターのスティーブ・パー氏。日本は米国にとって最重要市場で、2位のカナダに大きく差をつけているそうです。「エクスペリエンスをシェアすること大切だと考えています。味わいだけでなく、音楽を楽しみながらとか、仕事終わりの一杯とか、アウトドア・アクティビティとして、などのオケージョンを提供しているのが、このイベントです」。その精神がベースとなっているから、天候のリスクを取りながらの屋外開催なのですね。
出展していたインポーターや、来日したブルワーにお話を伺いました。
(左) カーディナル・トレーディングのグレイソン・シェパード氏はバージニア州出身。東海岸のビールが殆ど入っていなかった日本市場に、自身の故郷のビールを紹介したいと、ハーディウッドパークのビールの輸入から事業をタートさせました。「アメリカのビールは味も品質も世界をリードしています。IPAも良いけれど、アメリカで今はラガーが人気だし、バレルエイジなどもぜひ試して欲しいです。」と言います。ハーディウッドパークのバーボン樽熟成のオートミールスタウト、「ケンタッキー・クリスマスモーニング・スタウト」は、毎年このフェスティバルに来る常連の楽しみとなっています。
(中左) アンユージュアル・ホールディングスのティモシー・ユー氏は、8年前に東京で事業を開始。全てのビールを空輸し、アメリカと変わらない状態で市場に提供しています。ブルワリーを出荷してから2週間以内に届くので、フレッシュホップもできたてそのままを味わえます。イベントでは、アメリカでも入手困難なニューヨーク州エクイリブリウム・ブリューイングのニューイングランド・トリプルIPAや、ミズーリ州サイドプロジェクト・ブリューイングのファームハウス・サワーなどを提供。少し高めの価格設定でも、ここでしか飲めない味わいを求める来場者の人気を獲得していました。
エバーグリーンは、シカゴピザの店、デビルスクラフトのビール輸入から始まった会社です。このブースに立っていた2人のブルワーを紹介しましょう。
(中) 人口8000人ながら5つものブルワリーがあるワシントン州のポールスボーという町にあるエコーズ・ブリューイング。エバーグリーンの最初の取引先、前身のサウンド・ブリュワリーの創設者として来日していたマーク・フッド氏は、今や、このイベントの常連。「ザ・ウェーブ・ダブルIPA」はサウンド時代の「フムロ・ニンバス」。モルトのバックボーンにシトラとギャラクシーの柑橘と核果のホップ感をライ麦のスパイス感でピリッと締めます。
(中右) ウィスコンシン州のランボー・フィールドというスタジアムのすぐ横にあるヒンターランド・ブリュワリー。冬はマイナス40℃にもなる寒い場所です。ビール造りを始めて30周年というビル・トレースラー氏が「気分だけでもジャマイカを感じて欲しい」と紹介した「ジャマイカン・ヘイズIPA」は、ココナッツやライムなどトロビカルなキャラクターを感じさせるサブロホップを使った、晴れやかな味わいです。
(右) えぞ麦酒は、1992年に札幌市に設立された、日本初のアメリカンクラフトビールの輸入会社です。創業者は南カリフォリニア出身のフレッド・カフマン氏。オレゴン州の老舗醸造所、ローグ社のビールの輸入を始めて30年になりますが、フラッグシップの「デッドガイ・エール」は骸骨の絵のパッケージで当時の消費者たちを驚かせたものでした。ビアスタイルはドイツのマイボックでモルトの甘みも苦味もリッチ。髭がトレードマークでビア・サンタと呼ばれるカフマン氏の8歳上の兄はカリフォルニアのソノマでワイン商をしており、兄弟そろって自身の目利きで見つけたお酒を紹介することに生きがいを見つけているようです。
アンテナアメリカのブースには7ブランドの生産者が来日していました。そのうち5人にお勧めビールのPOPの前に立って貰い、ひとこと頂きました。
(左) メイン州ポートランドのアラガッシュ・ブリューイングから日本初上陸の「アラガッシュ・ホワイト」は、世界で最も受賞歴の多いベルジャン・ウィートエールです。キュラソーオレンジピールのシトラス感とコリアンダーのバランスが絶妙な缶内二次発酵。「感度の良い店に取り扱って貰えています」と輸出担当のケビン・ストーンロード氏。
(中左) カリフォルニア州シエラネバダ山脈の麓の町チコにあるシエラネバダ・ブリューイング。今年も待望の「セレブレーション・フレッシュホップIPA」がアメリカでリリースして間もないタイミングで、空輸で届けられました。1981年から毎年醸造される、アメリカンクラフトビール最初期のIPA。これを飲まずしてIPA好きは語れないとまで言われる伝説のビールです。スティーブ・グロスマン氏は、40年以上変わらないレシピを踏襲しつつ、収穫時期にはその年に使用するホップ農場を厳選することに、時間と労力を惜しみなく費やしています。
(中) クラフトビール不毛の地だったテキサス州の小さな町シャーマンで、ジェレミー・ロバーツ氏が妻とともに独学のホームブリューイングから始めた903 (ナイン・オー・スリー) ブリュワーズ。定番なく次々と新たなビールを世に出すクリエイティブなブルワリーです。ミルク味のアイスキャンデーをイメージした「コズミック・ドリーム・ストラータ」は、人気のフルーティなホップを使ったトロビカルなフレーバーのヘイジーIPA。
(中右) 高地トレーニングのメッカとして知られるコロラド州ボルダーにあるアップスロープ・ブリューイング。ロッキー山脈の雪解け水を使って仕込んだ「シトラ・ペール・エール」はグレープフルーツとトロピカルフルーツのアロマが特徴的な飲みやすい定番アイテム。輸出マネージャーのチャド・ピーパー氏は、「大自然に囲まれ、スキーや自転車などのアウトドアスポーツを楽しんだ後に飲むのに最適です。」と飲用シーンの提案もしていました。
(右) カリフォルニア州サンディエゴのダウンタウン、ミラ・メサに2002年に創業したグリーン・フラッシュ・ブリューイング。「ウエスト・コーストIPA」は、5種類のホップを使い、フローラル、パイニー、シトラシーな要素が交じり合う複雑みのある味わい。「大量のホップ投入による飛びぬけた苦みを持つこのアイテムが、ウエスト・コーストIPAというビアスタイルを有名にしました。」と解説したのは、このブルワリーを参加に収めるティルレイ・プランズのマネージャー、ジョシュ・ダニエル氏。
未輸入のブルワリーの代表者らもフリップを手に自社のビールをプレゼンしました。
(左) アラスカ州のピュアな氷河の水と地元の素材を活かしたビールをつくる49ステイト・ブリューイング。マーケティング・ディレクターのアンドリュー・コックバーン氏は4アイテムのビールを紹介。ハワイアンテイストに仕上げたという「タイガーズ・ブラッド・サワー」は、ココナッツ、スイカ、イチゴのフレーバー。「スモーク」は自社で最も高い評価と受賞歴を誇るラオホスタイル。「ブロンド・イーグル・エール」は手摘みしたアラスカ産トウヒの穂先を使用、赤いベリーの風味があります。「ナイトロ・マッカーシー・スタウト」は、アラスカ唯一のナイトロで、チョコレートを思わせるドライ・アイリッシュ・スタウトです。
(中) 印象的な動物のイラストの缶を次々と手に持ってプレゼンするのは、コロラド州のブートストラップ・ブリューイングの当主、スティーブ・カズース氏。「ダブル・ラッシュ・パピー」はABV9.2%ながらジューシーで飲みやすいIPA。「ビックル・ミー・アップ」はゴールデンエールにピクルスの漬け汁を入れた独創的なビールでABV 4.5%の爽やかな味わい。天敵から逃げるウサギの絵が迫力の「インセイン・ラッシュ IPA」は5種類のホップがエッジを与える独特のフレーバー。
(右) イリノイ州シカゴに2箇所タップルームを持つスケッチブック・ブリューイングは、今年開業10周年のマイクロブルワリー。初来日したブランド担当のテオドア・ペレス氏が3つのビールを紹介。「ビア・フォー・ザ・ソウル」は地元のレストラン、ソウル&スモーク・バーベキューとのコラボによるベルジャン・ペールエール。ベルジャンビアカップで銅メダルを獲得。「オレンジ・ドア」は、2度ドライホップしたシトラシーでパイニーなフレーバーと、モルトの甘みとのコントラストが魅力のIPA。シカゴはポーランド移民が多いことからつくった「グロジスキー」はポーリッシュ・スモーク・ウィートビール。燻製でも小麦モルトだからラオホより軽やか。グレート・アメリカン・ビアフェスティバルやジャパンインターナショナルビアカップ銅メダルを獲得。
American Craft Beer Experience 2024では、38ブルワリーから100種以上のビールを提供。16人がアメリカから来日しました。
昨年のレポートはこちら↓↓↓
American Craft Beer Experience 2023